ドアの猫穴

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『麒麟がくる』 - 『十兵衛は、どこまでも十兵衛。』 という祝福の言葉

まだまだ 『麒麟がくる』からの所感です。まとまりませんが書いておこうかなと思って。

 

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兄妹ゲンカに巻き込まれて欲しさ...(どっちも十兵衛を味方につけようとする)

主人公の十兵衛が、自分の下した結論を述べた時、

「十兵衛は、どこまでも十兵衛じゃ」 

という同じ言葉を まったく違う場面で、帰蝶と信長にかけられるシーンがあります。

まったく同じ言葉が物語の中で繰り返されるときには、ハッキリとした意図があるはずです。

 

 

最終回後、(幸運なことに)脚本の池端俊策先生のオンライントークが開催されました。視聴者からの質問を事前に募り、あのシーン・あのセリフに込めた思いなどをお聞きすることが出来ました。

そこで(質問への回答だったか、それとも池端先生自身の語りだったか、忘れてしまいましたが)

『十兵衛は、どこまでも十兵衛』というのは、愛情ですよ。

『あなたは、あなただね。』 というのは愛の言葉です」 と仰っていて。

文字面だけだと呆れている様にもとれてしまうんですがw 池端先生はハッキリと、「いつまでも変わらない相手を、そのまま受容する言葉」 として、劇中に使っていたそうなんです。

 

十兵衛が人生の最初の時期に 多くの人に見守られ愛されて育った 『祝福された息子』であっただろう...という考察は、すでに素敵な文がこちらにあります(すごく好きな解釈です)。

realsound.jp

明智家の人々ー 特に、早くに亡くなった十兵衛の父上は、きっと幼いころから息子の持って生まれたものを否定せず 「あなたは、あなた」 という受容ありきで育み導いてきたのだろうな。

十兵衛が決して人当たりがよくなく、むしろ迎合なんて絶対しない頑固な性格なのに、あんなに出会う人々に好意を寄せられまくるのは、彼が 「自分は愛されている」 ということを何の疑問も持たないくらい確信しているからではないでしょうか。その揺るがなさが、さらに人を安心させ、惹きつける。愛される人はさらに愛されるようになっている...逆説的ですが。

 

「あなたは、あなたのままでいい」というメッセージを受け取りながら、その言葉、その思いを養分として育ったなら、それだけで何という祝福でしょうか。 

生まれた時代を問わず 「自分のあるがままを世界は受け入れている」 という経験は、いっぽん通った「スジ」となり、暗闇のような迷いを、見通せない未来を、照らし示す灯火となり、恐れず進むエネルギーを与えてくれるでしょう。

「あなたは、あなた」 の言葉は、自分を信頼する力に変わるのです。

 

…そしてこれらを全部ひっくり返すと、信長の在り方になるという。(悲しい...)

 

信長は 愛されるのに、愛情を受け取るのに、「理由」を必要としちゃう育ちなんじゃないかと。信長の母が、徹底的に彼の表面上の行いや容姿で、彼を評価する人だったから。

 

常に、愛されるだけの価値のあることを示し続けなければ。有能で、役に立って、強くて、美しくて...他人を喜ばせる者でなくては、愛されない。

喜んでもらえたら成功で、そうでなかったらダメなんだ、という二択の思考。

「あの人もこの人も、自分といて利益があるから一緒にいるのであって、それが無くなれば離れていってしまう、背を向けられてしまう」 という思い込み、獏とした不安。

これだと、責任や立場が上になるほど不安と猜疑は大きくなり、いつか折れてしまいます。

 

信長が求めて止まなかった 「褒められ、承認されること」 「それをもって、ようやく己も自分を良しと思う」 と、 まるっきり質の違う十兵衛の人格の作られ方、そのありさま。

 

でも、『十兵衛は、どこまでも十兵衛じゃ』 と劇中で言った人のひとりは、他ならぬ信長です。

幼い頃から良く知っている帰蝶よりも、時間に比すると深い理解を持っていたと言うことなので...私は 「松永久秀が言ったように、ふたりの根は同じ、似たもの同士なんだろうな~」 と感じました。少なくとも信長から十兵衛に対しては、受け入れる心が、ちゃんとあった...。

十兵衛が、あんまりにもナチュラルに、「人は自分自身を大切に出来る、自分で自分のことを褒められるものだ」 って確信してるから…信長の不安や寂しさに気づけなかったんだよ...。

気づけなかったからと言って、十兵衛が悪いわけでもない。

本当に「人の成り立ちが違いすぎた」ことによる、すれ違い。

 

変わらないことを是として愛された十兵衛と、変わり続けることを内面化し要求された信長。

 

信長が、あるいは十兵衛が、違う価値観に育まれていたら、どういう出会いでどういう関係になっていただろう。

…またそのif世界でも、根が同じ者同士、重い感情が縺れたりするのかもしれないけれど。

 

 

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 おまけ:やたら声のでかい同僚

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 この人もまた「自分『しか』信じてない」、別のタイプだなあと思う...