ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

『子ども科学電話相談』回答者の先生の著書を読んでみる。《4》

4回目は 恐竜大好きキッズとのスパーリング回答でお馴染みの『ファルコンズ・アイ』恐竜研究者・小林快次先生の『恐竜まみれ 発掘現場は今日も命がけ』です!

 

恐竜まみれ :発掘現場は今日も命がけ

恐竜まみれ :発掘現場は今日も命がけ

  • 作者:小林 快次
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/06/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

いやはやなんてハードボイルドな文章なのか...!そしてサスペンスにみちあふれた現場なのか...!

「私は探検家ではないはず」と言うものの 貴重な恐竜化石が眠っている土地は 昼は灼熱・夜は極寒のゴビ砂漠、ヘリコプターしかアクセス手段のない極地近いアラスカの未開地(ハイイログマが住んでいる)など、生命の危険と隣り合わせの場所ばかり。そこに挑む小林先生、国際色豊かな研究チームとスタッフ。毎回が「ミッション・インポッシブル」状態です。

厳しい自然条件や金目当ての盗掘(後述します)と闘いながら 経験に裏打ちされた観察眼を使い、わずかな手掛かり・痕跡も見逃さない。見つけた化石の状態を注意深く保存し、恐竜の生活環境を推理するのは まるで殺人現場を検証する鑑識のよう。

知恵と体力をふり絞って 恐竜のみならずその生きていた時代の地球に迫る姿は どうしても「探険家」と呼びたくなってしまいます...!!

カ、カッケー!! 読者を男子小学生脳にしてしまう!!

 

www.nhk.or.jp

 

印象に残った本文を引用↓

化石を見つけるには、人の歩いた形跡のないところ、つまり、歩きづらいところを敢えて歩くのだ。どんなに疲れていても、敢えて違う道を歩くように心がけ、常に化石が落ちていないか目を配る。

 

…ひとと同じことをしていては、新しい発見は出来ない。

 

しばらくして化石が見つからないと、たいていの人はあきらめモードに入ってしまう。しかし私は違う。むしろワクワクしてくる。新しいフィールド、化石産地に入ったときには、「必ずここに恐竜化石はある」と考えるようにしているからだ。

 そこに「ある」ことを前提にしているので、ちょっと探しても見つからない、更に探しても見つからないと、まだ目を通していない残された土地に恐竜化石の埋もれている確率は、相対的に上がることになる。だったら次の一歩で見つかるかもしれないと、ワクワクするのだ。

 

 『オラ、ワクワクすっぞ...!』 リアル孫悟空ドラゴンボール)だ...!

 少年漫画のヒーローのようなメンタルが子どもたちの憧れと尊敬を集めている...。

スポーツ漫画が競技人口を増やすのに貢献したように「先生のように発掘に行きたい、研究者になるぞ」「僕が私が新しい発見をするぞ」という夢を持つ子どもを育んでいて(科学電話相談に電話してくる子どもたちがまさにそう)、とても素晴らしいことだなあ~、と思います!

 

そして小林先生は「例え発見者であろうと決して発掘場所から自由に持ち出したり、所有できるものではない」という大原則について、熱を込めて語っておられます。

化石は現物を所有することができるために、さまざまな問題が起こっています。モンゴルや中国で度々出会ってしまう「売れすじ」だけを持ち去る発掘=盗掘を見て、「化石とは畢竟だれのものであるか?」というお話で、これは個人的に身近で、また身につまされることでした。

化石の所有権は、誰にあるのだろうか。発見した人のものなのか、その土地を所有している人のものか、発掘に金を出した人のものか。

様々な考え方があるが、恐竜の化石は基本的には文化財であり、その国のものになる。だが、それがすべてではない。「自分が見つけてやった」と考える研究者もいれば、各国独自のルールもある。例えばアメリカなどでは私有地から出た化石は、その所有者のものになる。そういう判例がある以上、それを悪用する人が出てくる。

だがそれらはすべて違うと思えてならない。「その国から出た化石は、その国の宝」以外のロジックでいくと、限りある宝が失われてしまうのだ。

 

趣味の化石標本マーケットが存在し売買されることについては「100%反対」。

複数の標本を繋ぎ合わせた、巧妙な出来の「ニセ化石」が コレクターだけでなく博物館や学会まで騙した事件も、枚挙に暇がないようです。

 

モンゴルではいまも、捨てられた化石が山になっている。本来は立派な化石なのに、盗掘者がいいところだけ、つまり素人にも分りやすい部分だけを取り去った残骸になった。

それらはもしかしたら世紀の発見だったかもしれない。科学的な概念を覆す存在かもしれないのだ。同じ砂漠を歩き回ってきた者として何とも歯がゆく、怒りしか覚えない。

日本で売られている化石は、中国、北米、アフリカなどからも来ている。各地での"乱獲"で、化石は確実になくなってしまう。骨目当てで、ただ掘り出してしまえば、貴重な情報は半分以上失われる。化石は掘るところから大事なのだ。

 

化石だけでなく鉱物にしても 「これはよその土地を削って持ってきたものだ」という意識を、ないことにしてはいけない。

ミネラルショー等でつけられた、由緒・鑑定書きや値段(その多くには何の根拠もないと先生は書いています)を鵜呑みにし、お金を払って手に入れることについて 見直さなければ…と思いました。

 

 鳥の川上先生も「皆様の税金を使って研究させていただいている身として成果報告を世間一般にリリースしてゆくことは、如何に私がシャイであっても(えっ?)研究と同じくらい大切な仕事だ」と書いておられましたが

ライバルの小林先生もまた、「サイエンスから得られる新たな発見は、自分による発見であっても誰であっても、世界全体のものだ」という視点でいらっしゃる…ということが 熱く伝わってきました。

トレジャーハンターと研究者を分かつ大事なラインが見えました。

 

それはそれとして、見事な全身骨格や新種かもしれない化石が 目の前にあらわになった時の、「スゲー! カッケェー!」という先生の第一声は それはやっぱりめちゃくちゃ正直な探険家の心の声ですよね~! と、ニヤニヤしちゃうのでした。

 

次回はまた、しばらく間を置いて続ける予定です!