ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

『夕凪の街 桜の国』感想

8月15日だし、こっちから先に感想書きます。

  

夕凪の街 桜の国@映画生活作品情報(詳細)

 

映画化の報を聴いてからずっと楽しみに待っていました。鑑賞後、観てよかった! と思いました。

 

マンガ原作の映画化としては、ここまで原作に忠実な演出は観たことがない!

その点マンガを読んでから観る人は安心な反面、思ったほど感極まらないかもしれません。

(それでもやっぱり、七波の『生まれる前から、こんな景色を私は知っていた~』はグッときますが…)

予備知識のない家族や友達を連れて行って、ボロ泣きに泣かせてみるのも楽しいかも(悪趣味)。

以下ちょっと内容に触れます。ネタバレを気にするような映画じゃないけどね。

いわゆるヒロシマ被爆者を扱ったドラマとしては(しばしば『はだしのゲン』と対比して)

「ぬるい」「キレイすぎる」という評価もあることも知っています。

ワタシも数々の被爆者の方の証言が、記録・記憶として忘れてはいけないものであるとは知りつつ…

生理的に、血・傷・死体etcの痛みを喚起する描写がどうしようもなく苦手なのでありまして…(笑)

ホラー映画なんてもってのほか!『トランスフォーマー』ですら、メガトロンに蹴っ飛ばされる一般人を見て「イタイいたい死ぬーっ」っていたたまれなかったくらいですから。原爆資料館に行ったら、まず吐くし不眠になる自信があります。

そこから目をそむけるなんて!この非国民! と言われると、ごめんなさいとしか言いようがない。

 

そういう、衝撃体験を避けがちなワタシのような者にとっては、割と静かに穏やかに語りかけてくる、この作品はちょうどいい。

ゲンの痛みは重すぎて抱えきれませんが、七海の心なら共有できる、共有しつづけられると思うのです。同時代・同年代を生きている人として。

彼女が家族を通して知った戦争は、すでに歴史上の出来事に加えられつつあるものではなく、今生きている自分とつながっている時間の中で起きたこと。

それを忘れないだけでも、勘弁してくれません…か?

 

登場人物が誰も直接には戦争への怒りも平和への思いも語らない。

ただ、当たり前の家族や恋人との絆を確認し合う。その空気が好きです。ワタシもその場に一緒にいられるのです。

 

あと、皆実の「うちは生きとっていいんでしょうか」という自問や、フジミの「なんでうちは死ねんのやろ」という言葉は、最近の大事故や震災に遭った方たちが、よく口にされる生き残ったことへの罪悪感に似ていて、そういうのも、とても現代に近いところにある感情に感じました。

旭が『何で原爆は広島に落ちたんや』というのに対して、皆実が『落ちたんやない、落とされたんよ』と応えるシーンも印象的でした。(このセリフは原作になかったような気が…)

なんとなくワタシたちは、戦争がどこかで発生した台風のような、自分には責任がない出来事のように思ってしまっていますが。 

戦争が始まるとき、多くの日本人がそれを支持してしまったことを忘れちゃいけない。

原爆は『落ちた』んじゃなく『落とされた』。戦争は『始まった』じゃなく『始めた』。

落とさなきゃ落ちなかった。始めなきゃ始まらなかった。

主語は常に、人間の側にある。

それを意識し続けることが、また同じ過ちを繰りかえさないためのつぎの一手、はじまりだと思う。

 

ワタシは今が決して平和だと思っていません。簡単に死ぬし、殺すし。

若い人の間に「役に立たない人間は死んでもかまわない」という風潮が広まってるのがすごく不穏に感じる。そういう土壌が、次の争いの火種を含んでる気がして。

まず「戦争はいけないことです」と言うのと同じ口で、同級生に「死ね」って言うのをやめろよ! と思う。「お母さん、ありがとう」って言おうよ、と思う。

 

そんな、身近な人たちと交わす言葉ひとつひとつからホントの平和が始まると、ワタシは信じます。

この映画を観て、さらにその信仰は強まりました。