ドアの猫穴

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『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』を観ました。

Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」の感想です。

すでに名探偵ではなくなってしまった、二つの大戦後の世界を生きるホームズの話は、しんどくて切なくて、最後はじんわりと温かくなりました。

ワトスンによって書かれなかった彼が、実在して、こうして生きていたのではないか...と信じたくなるようなストーリーでした。

(以下ネタバレです)

もう言い尽くされてると思うけれど 自然がもうひとりの主役! と言えるくらい 老ホームズが隠居している農村や海岸のロケーションが美しくて...

美しいけれど決して穏やかな、優しいことばかりではないところも良かったな。

老人のホームズ、家政婦のマンロー夫人(親世代)、その息子のロジャー少年(孫世代)という3つの世代が、ときどきすれ違いながらも共に暮らしてゆく姿に 身近な人や自分を重ねてしまいました。

あと『この世界の片隅に』思い出してしまって...。

93歳で日本を訪れるホームズ、賑わいの中で不意にすれ違う顔に火傷のある女性→ 背後の「広島駅」の文字→ そして廃墟...に、観ている者はそれがどういう時代であったかを思い出して、ハッとする。

この作品もやっぱり老いたホームズが自分の「片隅」を見つける話だったと思います...。

真田広之氏演じる日本人ウメザキの行動はかなりの部分、ホームズへの抑え気味の怒りによるもので、諦めねばならないことを諦められないで、恨み言めいているんだけど。

多分ウメザキも、また最後の事件で亡くなったアン夫人も、

かつてホームズが切り捨ててきた、人間の「理論的ではなく、こころによって、生きて、動かされる」という側面を 体現していた人々だったのではないかな、と思いました。

若き現役時代に無敵で自信に溢れていたように見えたホームズが「後悔なら数え切れないほどした」と ロジャー少年に吐露するシーンは、老ホームズの衰えと弱さ以上に、彼も人間であった、という当たり前のことを感じられてホッとしました。

そしてすでにこの世にいないワトスンが、アンを救えなかった親友の悲しみを、事実とは異なる解決を見る「物語にする」ことで癒そうとしていたことも、ロジャーのお蔭で明らかになります。

それら全部にホームズ自身の命が尽きる前に気づけた。すべて忘れてしまう前のギリギリの時に間に合ったのが、ハラハラした後でとてもホッとしたし、幸せな結末でした。

いつか必ずホームズも亡くなるけれど、歳の離れた相棒となり、一緒に過したことを決して忘れないロジャー少年は生き続ける。それが本当に「希望」だなあと思いました。