ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

『金剛の塔』 読みました。

木下昌輝先生の 日本建築史ファンタジー? なのかな? 既存のジャンルには当てはまらない ふしぎな小説『金剛の塔』を読みました。

 

金剛の塔 (文芸書)

金剛の塔 (文芸書)

  • 作者:木下昌輝
  • 発売日: 2019/05/17
  • メディア: 単行本
 

 

 「大坂・四天王寺五重塔」と「その建築に携わる工匠の一族『魂剛』」。

この 「場所」 と 「家系」 は固定して、定点観測のように、仏教伝来の飛鳥時代から、平成末年の今日まで...という、1400年の間を行ったり来たりします。(時系列順の物語には、なっていません)

タイムトラベルの案内役は、四天王寺のおみやげの聖徳太子スマホアクセサリーです。

 現代の感覚で、「文化財の保存」を考えるなら 「古いものはできるだけ今あるままに手を加えず、良好な保存状態で永らえる」ことを目標とします。

しかし四天王寺五重塔は、日本最古の高層建造物として建てられた「そのもの」が残っているわけではなく 幾度も戦火で焼けては再建を繰り返し、現在まで至ったものです。地震で倒壊した事は一度もない、というのは凄まじいですが。

「破壊と再生のサイクル」 が、塔のひとつのすがた。まるで不死鳥のよう。

「なぜ塔は何度も建てられたのか。焼けるたび、蘇ることを人々に求められたのか」という理由は、最終章 ーまだ「倭」だったこの国に、造寺工と最初の猫が、海を越えて渡ってきた時代ー で明かされます。

「地揺れにも倒れぬ塔を建てる」ことは この地震国の民が文明のレベルアップをするために克服せねばならない、課題のようなものだったのですね。

教えの、文化の、「器」 たる建物が 重力と地震にあらがい天高くそびえること。地べたに藁を積んだ「3びきのぶた」の長男のような住居で雨露をしのいでいた当時の人々にとって その塔を目にすることは なんと革命的な、思考の進化をうながすものであったか...。たかが塔ではない。その重要性を工匠たちに伝えたのが、ストラップのキャラクターではないほうの、 「厩戸皇子 / 聖徳太子」でした。

大陸の建築が そのままでは通用しない、この国の自然に立ち向かうために、渡来人の造寺工・金剛(のちの魂剛)は発想の転換を行います。仏塔のすがたの変容は、日本に伝わった仏教が国家鎮護、集権体制の成立に利用される宗教に変わっていくのとも、対応しています。

 

最近その実在や逸話が疑問視され、検証されている 「厩戸皇子 / 聖徳太子」の、正体についての解釈も ぶっとびつつも物語の中で納得できる姿で登場してきます。「『彼』は 『巫女の呪術の世』 と 『ほとけの法の世』 とを繋いで受け渡したんだなあ」と思いました。

それを言うと この物語のすべての登場人物は皆、五重塔の再建という仕事に取り組みながら 意識的にも無意識にも 「受け継ぎ、伝える」人でした。

安土桃山時代~江戸時代初めの二つの章を除き、それぞれの章の主人公は同じ魂剛組で働く者(猫もいる)ですが、遠く時代を隔てていて互いのことを知るすべはありません。

しかしそのうちの誰の存在が欠けていても、五重塔は現在に残っていなかった。知らない誰かのバトンを確かに受け取っている。ロマンだ...!

 

下版・『火の鳥』です(そう言えば手塚治虫先生も大坂の人だし、手塚先生は医療知識を生かして漫画を描いたけれど、木下先生も建築の仕事の後に作家になった!)。楽しかった! 装丁・イラストがとてもキレイです!