ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

映画『この世界の片隅に』観ました。

最寄映画館でも公開が始まった『この世界の片隅に』を観に行きました。

2007年に公開された、同じこうの先生原作の実写化「夕凪の街 桜の国」を観たとき、チラリと「実写も良かったけどアニメで観たかったかも」と思ったり思わなかったりしたので...今回、この作品がアニメ映画化されたことは願ったことが叶ったように感じました。それが出不精な自分が映画館に足を運んだ理由でした。

「夕凪の街 桜の国」の感想はコチラ

 

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 

 

「夕凪の街~」と同じく「感極まって号泣してしまう」というような、心の動かされ方は無かったです。(ただ、胸が苦しい、動機が上がって仕方ないシーンはありました...)

水彩絵の具が画用紙に染みて色づくように、心にゆっくりと浸透して、周りの景色の見え方を変えられていく、そんな気がします。

なんてことない日常の一場面の中で、例えば家事をしているときなんかに、思い出して涙がこぼれます。

わが身に寄せてしまって恐縮ですが 主人公のすずさんと 自分の性質がとても良く似ていて、親近感がわきました。

特に彼女が結婚にいたる経緯の、どーにもパッとしない、全然劇的じゃない、あれよあれよという間に流されて...なところと、その後の夫婦関係、

(詳しくは伏せますが)子どものころから絵を描くのが好きだったけれど今は描かない、というところ、とても自分と似て感じました。

あの時代に生まれていたら私もすずのように暮らしていたのかもなあ、と思いました。

 

この映画の、製作の過程や 公開にこぎつけるまでのエピソードも大変楽しく読みました。

また、実際の広島の風景・生活・風俗や空襲等の出来事のタイムライン、軍事関連資料への、徹底した取材を感じる「リアリティの追求」と、手書きや水彩画タッチの心理描写の部分とが まったくケンカせず溶け合うように在るのはとても不思議な気持ちでしたが

「そうだ、これはこうの文代原作だった。こうのさんの作品はそうだったな」ということを思い出しました。

 

昔の自分の感想を見返して照れくさく思ったけれど「夕凪の街~」でも「この世界~」でも根っこの部分に深く、流れているものはかわらなかった。

その「根っこ」とは うまくいえないけど

何が起こっても「この世界は生きるに値する」という ことなんじゃないか...と思います。

 

(以下、ややネタバレを含みます)

 

 

過酷で厳しい、ある異常な状況の時代を切り取った...と感じる場面よりも「この人は誰かに似ている」とか「こんな気持ちになったこと、あるなあ」と

今まで経験した、身近な出来事を思い起こす場面のほうがずっとずーっと多かったです。

身も蓋もないことを言うと「国が戦争やってる以外は、変哲もない生活」を描いてました。

例え戦火が無くても、いつか人は死んでしまい、別れは思いがけずやって来る。

どんなに「ぼーッとしたままでいたかった」と願っても、時間は人を、すべてを変えていく。

それはいつの時代も変わらない 重いけれど「当たり前のこと」ですね。

特定の感情を煽り立てるような演出もメッセージも無いです。何者にも抗議してないし何者も礼賛していなかった。

だけど、おかしくて時々ジンワリと来る。ごくありふれたある女性の身に起きる出来事を追っているのに、心に残る物語になってるんだなぁ...

 

ある登場人物が サラリとすずに向かって言った「居場所なんて、そう簡単になくならないものだ」と言うシーンと、

劇中終盤で「絵を描く」という、今まで周りの人を楽しませてきた、見るからに「創作的な」特技を失ったすずが、むしろ描けなくなったために、ある命を救うキッカケを得る...というシーン。

この2つがとても好きです。

とても勝手ですが 私は「今、見るべくしてこの映画を観たんだ、ここに導かれて来たんだ」「人生のこの時にこの映画に出会えて良かった」と思いました。

何かと「ここは私の居場所なのだろうか。ここに居ていいんだろうか」と、考え込んでしまいがちで

そして何も描けない自分が とてもつまらなく何の取りえも無くて幻滅している、そんな今の自分にピッタリはまる言葉とエピソードでした。

 

私の場合は、その2シーンが印象深かったですが、この映画を観た方々それぞれに何かしら「あるある」よりも もっと近しく、生々しい

「ああ、ここに私が居る」「これは私だ」と思うような「体験」を与える。そんな作品だと思いました。

「鑑賞」ではなく「体験」なので、いつまでも心の深いところに残り、忘れられないと思います。

 

既に海外での上映準備も始まっているとの事ですが国内はもちろん、世界の、出来るだけたくさんの人にこの作品が観られる事を願って止みません。

機会がありましたら是非、劇場でご覧になっていただきたいです...。