ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

本能寺の変まで、あと3年。『信長の忍び』18巻を読みました。

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重野なおき先生の戦国4コマ漫画新刊、3冊同時発売でした! まずは『信長の忍び』18巻のアレコレです。

 

 

まず最初に、私は重野先生が描く官兵衛様が大好きなので! 『信長の忍び』だけど思いっきり有岡城攻防戦、官兵衛中心の感想になります。ネタバレもあるよ。

 

 

 「軍師」という「アウトロー」の生きざま 

これまで秀吉、ひいては織田軍を知略で導いてきた竹中半兵衛が、ついにその生涯を閉じました…。

 

最後の計略は 主君・信長までも欺き、人質だった官兵衛の嫡男・松壽丸(長政)の命を救う というもの。

「もし官兵衛が生きて帰った時に息子が殺されていたら、官兵衛は織田の敵に回るだろう」というのが戦略上の理由ですが、また同時に半兵衛は、個人的に官兵衛の人となりを知っていて「官兵衛が裏切るはずはない」という信じる心、友情からとった行動でした。

 

半兵衛殿の死...すごく悲しいけど、やるべきこと・やりたかったことをやりきって命の灯を最後まで燃やして逝ったんだ...と感じました。きっと満足な人生だったんだ、と(先に『軍師黒田官兵衛伝』のほうで読んでいて心の準備が出来ていたというのもある)。

 

半兵衛殿も、あと官兵衛殿もですけど「軍師属性」みたいなものがあるとすれば、まず「所属する組織を生かす」ことは大前提として、同時代人にしては、ずいぶん自我が強い存在なんじゃないかなと思うのです…。

今風に言うと「己の生きた証、爪痕を残したい!」欲がすごく強い人たちなんじゃないか。

他の冨や権力に対する欲は薄くて、とにかく「己の能力を発揮したい!」という欲望。

仕える相手に選ばれるんじゃなくて選ぶ方という意識でいる。選ぶ判断は「どれだけ自分の才覚を発揮できる器の主だろうか?」だと思います。自分本位。理想もあるけど計算もある。家と名を大切にしなきゃならない武士としては、だいぶアウトローなんじゃないか。

 

あと、何度も(この先も…)大切な仲間が逝くのを見送る立場の秀吉が、つらいなあ、少しずつ傷(業もある)が積み重なっていくなあ...という気持ちが強い…です...。

 

 

「新しい世に、己の居場所はあるか?」という問い

18巻で好きなシーン、有岡城土牢での、孫市と官兵衛のやりとりです。

 

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 この2人が出会って話すのは創作上のifだけど、もし本当に会っていたら…とか、語り合ってる内容とか…いろいろズシンと来る。

 

孫市と官兵衛は、織田家からも裏切った荒木がわからも距離を置いた立場から状況を俯瞰して見られる。だから、今後の展望のような話ができたんだと思うわけです。似た者同士のところがあるなあと。

孫市は金で雇われる傭兵、戦争を商売として割り切っている立場です(でも本願寺勢には戦友的な帰属意識が芽生えてきつつある)。

官兵衛は信長の直臣ではなく、忠義より何よりも分析して「信長こそが次の世を作れる勢力だ」と考えて動いています。信長という「ひと」ではなく「ちから」を見ているのが彼の視線だと思います。

さらに「その新しい世で己は必ず役に立つ、一枚噛める」という確信も持ってる。「自分の居場所は必ずある」と疑ってない。自信があるんですね...。

まあそれを、明日死ぬかもしれない、出られるかもわからない牢獄の中で主張してんのは滑稽だし狂人の域ですが! おかしすぎて清々しい!

 

いっぽうの孫市は「自分たち雑賀衆にとって戦は生きる糧。だから戦のない世になっては困る」という打算的理由がありつつ、武士たちが戦う理由はとても覚めた目で見ていました。

そして官兵衛の言葉を聴いて「もし他の生き方があるなら、戦のない世にも居場所があるなら、変わるのもやぶさかではないかも?」と思える柔軟な心を持っていました。

孫市がどんな道を選択をするのかが楽しみです...。ここでこの2人が出会って話した意味、物語の世界にどんな影響を及ぼすのかな。

 

そしてね~もう...。明智光秀...!

 

33ページ、同じページで、荒木村重から再三服従を迫られても「ワシは織田家に命運を託したのだ」と突っぱねるボロボロの官兵衛と、

その隣に同じく村重の「信長は治める器ではない」という言葉に揺れまくって「信長様は本当に天下人にふさわしいのか?」と自問する光秀を、並べるの...。

そんな…そんなエグイ対比の構成はヤメテェェェ!! と思っちゃったよ...!

 

家を大切にするところ、悩んでいてもつい本心を秘めてしまうところ、期待に応えようとするところ、そんな光秀のとにかくまじめな優しい性格が裏目に出まくって、追い詰められている気がしてならない…。信長のほうは光秀の気も知らず...と言ったら悪いけど、誉め言葉を素直に受け止めて喜んでくれている、と信じ切っているのがしんどい...。

誰も光秀の心の疲弊に気づかない。煕子様が長生きしていたら歴史が変わっていたのだろうなあ...!

 

妻子を犠牲にしても織田家との同盟に賭けることに決めた家康も…にこやかな顔に秘めた冷徹な判断も つらい…つらい…! 瀬名様にも、愛が…理解されなかったけれど痛々しいほどの深い愛があったんですね。

 

信長本人もまた 相次ぐ裏切りに暗い方へ引きずられそうになっている...!「もしも千鳥が自分に刃を向けたら?」なんて発想、今まで夢にも思わなかったはずなのに。これ、やっぱり今後への伏線なんでしょうか...ええ...…

 

力の拮抗した大名たちが割拠する時代から、どうやら織田1強はゆるがないようだ、という時期へとフェーズが移行する中で「織田の世が来たら、のその後」を夢見たり、案じたり...。

 この18巻では(信長絶対信奉者であることがゆるぎないアイデンティティの主人公・千鳥を除いて)実在人物メンツが、みんな

 

「果たして新しい世に己の居場所はあるか?」

 

と揺さぶられ、自問する 展開だったなあと思います。

 

ああ伊賀攻めの話全然してねえ~! これからすごく「忍びの国」な展開になっていきそうですね!(短)