ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

『秀吉の活』 読みました。

豊臣秀吉の人生の様々な局面・転機を 『活(い)きる』 - 『活』 をキーワードに語る、木下昌輝先生版『太閤記』です。

 

秀吉の活 (幻冬舎時代小説文庫)

秀吉の活 (幻冬舎時代小説文庫)

  • 作者:木下 昌輝
  • 発売日: 2020/06/11
  • メディア: 文庫
 

 

出世欲が空回りして「やらかし」の多い、危ない橋を渡りすぎる若き藤吉郎にハラハラ!

逆に言えば逸話に残る華々しい成功よりも、臆さず失敗することが彼を成長させたとも言えます。あえて「やらかし」にスポットをあてたお話なのだと思いました。

 そんな秀吉と、空気を読めるフォロー役の秀長(小一郎)のダブル主人公で、兄弟二人三脚の成り上がり物語なのか〜。と思って読み進めていたら、秀長の死についてはアッサリ流されてしまってビックリした…。 というくらい中盤まで羽柴兄弟の絆の描写が濃かったんだけどなあ。

 

もうひとり、前半生を仲良く過ごす前田利家。賤ヶ岳の戦をへて、彼が朋友から家臣の顔になった時...柴田勝家を倒すまでは、幼い頃と変わらず「猿」「犬」と親しく呼び合っていました。しかし利家は頭を下げ、秀吉を次の権力者として仰ぎ、もはや同列ではないことを言葉の外で告げました。

 

そのような描写を見て

「天下人になるとは、親しいひとを失うこと。孤独になること」

に集約されているのかな。と思いました。そばにいても、関係は変質する。 志を違える人もいる。先に逝ってしまう人も、自分が老いるにつれて増えて行く。

 

若い頃から孤高を背負った信長と、出世する程に愛していた人や世界との別離を繰り返し、悲しみに暮れ、傷を癒すこともままならない秀吉とが対照的に感じました。

 

また、今までフィクションでは名は知られているが活躍が少なかった織田家家臣の武将が、秀吉の人生を変える重要なポジションで登場するのが、とても良かったです。浅野又右衛門や佐久間信盛が、かわるがわる「師」となって教えてくれます。藤吉郎と仲悪く描かれがちな継父の竹阿弥もかっこいい。(かわりに明智光秀が、近年のイメージとは反対にとても悪役でしたw)これから『麒麟がくる』でも活躍しそうな近衛前久卿も、大切な役どころで出てきます。

全体的にアッサリめの物語ですが、新しい人物解釈がたくさんあり、楽しかったです。