ドアの猫穴

日々思うこと・感想文・気軽に出来るボランティア情報とか書きます。

『天下一の軽口男』読みました。

上方落語創始者と伝わる、米沢彦八の人生を描いた物語『天下一の軽口男』を読みました。

 

天下一の軽口男

天下一の軽口男

  • 作者:木下 昌輝
  • 発売日: 2016/04/07
  • メディア: 単行本
 

 

江戸時代の初め。大坂難波村に生まれた彦八は、卓越した観察眼と話芸のセンスを持ち、人を笑わせることに無上の喜びを感じる天才的な子どもでした。やがて幼馴染の少女の笑顔を取り戻すため、『天下一の御伽衆』 を目指し 芸を磨くべく江戸に出ることになります。

 人情話を汲み取る心が弱いので、主人公と幼馴染のすれ違いと結末のアレコレは「ああ、時代小説でよくある男女関係ね~」…という感じで そっちは流してしまったのですが(すみません) 「お笑い事始」に着眼したことが とても上手いな! と思いました。

 

権力者が雇う御伽衆がいた乱世から、社会を動かす主役が武士から経済を担う町人へ移り、寄席が庶民の娯楽として普及した世の中…。 その間の意外と知られていない、話芸の歴史のミッシングリンクを繋ぐ物語です。勉強になります。

 

お座敷芸の江戸/辻舞台で競い合う大坂、の差は 現代にも脈々と続いてるなあ…。とか、

「面白さ」をテクニカルに解説してくれる登場人物がたくさん出てきて、素人にもわかりやすい話だったなあ…。とか。

あと江戸で活躍した鹿野武左衛門のビジュアル、つい 故・桂歌丸師匠で想像しちゃいます!

 

芸人が主役といえど ちゃんと(?)命がけのやりとりもあり、ハラハラしました。ドロドロした同業からの足の引っ張り合い~の、風刺芸へのエライ人からの圧力あり~の!

才能があるのに幾度もそんな壁に阻まれてしまう彦八。いつの時代も、人のやることは変わらん...。

 

そのいっぽうで、彦八が出会う 「芸を志すも才能に恵まれなかったひとびと」 の描き方は 少しも落伍者というふうではなく、優しかったです。ありきたりですが 表舞台から消えた人が、残った者へ託すものがあるし、またそれぞれの人生は続き、守る場所・役目がある、と。

 

彦八が境内で舞台をかけていた 生國魂神社には 彦八の碑が建てられ、夏には上方落語協会による「彦八まつり」が行われるそう。落語が好きなので興味が湧いてきました!