ドアの猫穴

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』観ました。

劇場で見逃してしまっていたインド映画 『バジュランギおじさんと、小さな迷子』 を観ました!

(※実際の鑑賞日は 2月29日です)

 

バカがつくほど正直で善良な青年パワン(バジュランギ)は、母親とはぐれてしまった、しゃべることが出来ない少女と出会う。

ところが少女は長年対立・分断状態の隣国パキスタンの出身だとわかる。パワンは少女を親元へ送り届けようと決意するがビザも旅券も手に入らない(つまりパキスタンには密入国するしか手段がない。つかまれば犯罪者・スパイ扱いは確実)。緊張状態の国境を越え、冒険の旅が始まる!

...というとてもシンプルといえばシンプルな、おじさん&少女のロードムービーです。

でもとても良かった...評判どおりだった...。娘(女の子と同世代ですね)と一緒に鑑賞したのですが 長い作品にも関わらず、最後までドキドキしながら目を輝かせて観ていました。

 

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↑本編を観終えた後だと、滂沱の涙必至の、カットされたEDダンス。

 

初めて いわゆるボリウッド系、と呼ばれるインド映画を観ました。

作品によっては、ハリウッド映画以上に 超人的にかっこよくてつよーい主人公が歌って踊って大暴れする、「だが、それがいい!」「それでこそインド!」という、ファンの方の声が大きいジャンルだったので 「はたして自分には合うだろうか...??」と思っていたのですが この作品については 「現実のインドに根深くある問題をあつかっている」というお話を聞いて、それがフックになって観ようと思いました。

 

 

ふたをあけたら 絶望したくなるほどの社会派からーの、いきなり歌い踊りーの! この…! 数分で切り替わる温度差!!
「あっこれは…今まで観た映画とは違う文法文化ですね?!」って感じました。

 

インド映画、踊るんだよね~? と思ってたら期待を裏切らず初ッ端から! ものすごく脈絡なくキレっキレに踊るね主人公!!! ゲラゲラ笑いつつ、かっこいいと思わずにはいられない!!

 

踊りはおいといても まずこっちは 「今どき☆インド暮らし(主人公はデリー在住)」に関する知識がまったくないわけじゃないですか。パワンはインドのメジャー宗教であるヒンドゥー教を熱心に信じてて 序盤はヒンドゥーの常識でどんどん話が進められるので、そこは頑張って噛み砕きながらついていかないといけない;

(今書いてる感想には、後で調べたことを含みます)(娘には戒律などを知ってる範囲で説明しました)(日本製アニメを観て、日本の社会構造や文化を知りたくなる人の気持ちがよくわかった...)

 

 終盤、パワンと少女が辿り着いたパキスタンの、ムスリムの聖地での祈りの合唱も す~んごいかっこよくて美しい歌だった…! 荘厳っていうよりはエネルギッシュな、フォークっぽくて皆でノレるリズムで、インドパートでパワンが踊っていたシーンと 対になるシーンなんだろうなと思いました(ムスリムは立って踊らないけど)イスラーム=音楽禁止! って一律に決まってるのかと思ってたけど、南アジアのムスリムは賛美の音楽を奏でるみたい。ああいう歌もアリなのか…ってはじめて知った。新鮮! 好き!
あの地べたに置く鍵盤楽器は何かな? と思って調べてみた。ハルモニウムという楽器だそうです。

  

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インドもパキスタンも 多くの人々の思想と生活はそれぞれの神と共にあり、長年変わっていないであろう多くの習俗があるけど、まぎれもない「21世紀の世界」。ヒマラヤ山麓の聖地には露天のネットカフェ(Wi-Fiも飛んでるんだろう)があるし、民族衣装の人たちがみんなデバイスを持っててセルフィー撮るんですよね。「いにしえ」と「いま」が混ざった画が とても面白かった。

それが伏線となっているのか、途中でパワンと少女の連れになった パキスタン人記者・ナワーブが、その山間のネットカフェを使って、旅の動画をYoutubeで発信します。密かな故郷探索というアクションが、個人へダイレクトに届くネットに乗り やがて印パ両国の人の心を動かす大きなうねりになっていきます。パキスタンの警察官や国境警備軍までも...!

ナワーブ~!!! いいやつだなナワーブ~!! 正しいジャーナリスト魂の持ち主とパワンが出会えてよかった!! (儲かってなさそうだし胡散臭いけどw パワンと違って悪知恵がはたらく。おかげで窮地を乗り越えたりもする)
こうやって行く先々でめぐり合う人の優しさ・縁って、パワンのまっすぐさに神様が応えて必要なものを与えて下さった、恵みなのかもしれないですね。

 

本邦、特定の神様への信仰心が薄い人が多い...というか 「無信仰が最も多い信仰」だから つい軽く「宗教なんかあるから戦争が起こるんだよ」 と言ってしまうけれども。それはちょっと、浅薄かもしれないと思っていて。

 

パワンを見てると 弱い人が意思決定していくために、信仰はとても深く役立っている、とわかる。あの曲げない信仰が、時にはトラブルの種(作品的には笑いの種)にもなるけど、目的地に辿り着くためにはやはり信仰なくしてはだめだったと思います。見ず知らずの女の子に これだけ深く心を寄せ命がけのリスクを負っても助けようとすることが 「心根のやさしさ」 だけでは、思い得ないでしょう。

 

パワンも良い人ながらパキスタンムスリムに偏見を持っていた インドによくいる一人、なのですが 少女と旅し パキスタンの人ひとりひとりと顔を合わせ言葉を交わす中で 大きな枠の信仰へと、作り変えられていく気がしました。

彼女がモスクの中にいるのを見つけて 追いかけて入らなければならないとき、ものすごくためらう。ためらった後に自分の神様に祈ってから、ムスクの敷居(ではないけど、まあ日本的表現)をまたぎます。このときは 「自分の神への忠誠を破ってしまった...」と感じたかもしれないけど 後々になってみると、その時彼は「異教への偏見の壁を越える」一歩を踏み出したのだと思いました。

 

他にもいくつもの「壁」モチーフが現れる作品だったな~…。国境を隔てる鉄条網、大使館の金網、子どもたちが通うモスクの壁、見ず知らずの老人宅の壁、願掛け紐を結ぶ壁、留置場の壁。

それが何を象徴しているのか考えながら観ると、より深まるかもしれない…。

 

人ではなく国単位でも いつか違いをなくしてしまうのではなく 異なる信じるものをもったまま、良い隣人になることができる。少なくとも この映画作りに加わった人の中には 願いとしてあったはず。

今すぐに氷解できないほどに インドとパキスタンは長い年月、残酷な仕打ちをし合い、許せないことばかり。いまだ予断を許さない対立の中にあるけれど 私たちは希望は捨てていない。

そのメッセージが 遠い・事情を良く知らない国に住む私にもちゃんと伝わってきました。

 

「世界にはたくさんの 暮し方・考え方・信じるものが違う人たちがいるんだ」

「けれど、『違い』が 排除しあい、傷つけあう理由にはならないんだ」

 という、当たり前なのに忘れがちなことに気づかされます。

恥ずかしいくらい、直球ど真ん中狙って 伝えようとする物語だったと思います。だがそこがいい!

男女の恋愛要素なくはないけど、それもぜんぶ包括した、でっっかい隣人愛、人間愛のおはなしだったよ…! ラストはベタな展開をベタなまま全身で浴びて...そして泣くんだ...!!

 

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